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令和のPTAはどう変わるべきか?アンケート結果の分析から考える

令和のPTAはどう変わるべきか?アンケート結果の分析から考える

先日、PTAに関する問題を調べている中で、興味深い資料に出会いました。福島県PTA連合会が発行する広報誌「PTAふくしま第121号」に掲載されていた保護者アンケートです。このアンケート結果は公式サイト上で公開されており、誰でも閲覧できるようになっていました。

https://nc.fukushimaken-pta.jp/cabinets/cabinet_files/download/277/a8e5bcd03f09631d42cf6d30072e2a13?frame_id=337

単位PTAが独自にアンケートを実施する例は見かけますが、県レベルのPTA組織がここまで大規模に調査を行い、その内容を公表しているのは珍しいのではないでしょうか。令和5年に実施された調査であり、比較的最近の保護者のPTAに対する意識を知ることができる貴重な資料だと感じます。

目次

最大の悩み:役員のなり手不足

アンケートの自由記述で最も多く寄せられたのが、役員のなり手不足に関する声でした。「役員がなかなか決まらない」「毎年のように決定に時間がかかる」「結局いつも同じ人がやっている」といったコメントは数多く、保護者にとって大きなストレスになっていることがうかがえます。

特に深刻なのが会長や本部役員のポストです。一般の委員や学級委員であればまだ何とか引き受け手が見つかる一方で、責任が重い会長職や本部役員は敬遠されがちです。そのため「誰も立候補せず、仕方なく前任者や推薦で決まる」「信頼できる人に頼み込む」という事例が目立ちます。

背景には、共働き家庭の増加があります。ほとんどの保護者が仕事を持っている今、平日の日中に拘束される活動や夜間の会議に出席するのは大きな負担です。その結果、「役員はやりたくても時間的に難しい」「仕事を理由に断る人が増えた」といった現実が広がっています。

さらに、不公平感も課題となっています。ある家庭は何度も役員を務める一方で、一度も経験しないまま卒業を迎える家庭もある。児童数や世帯数が少ない地域では、毎年のように何かしらの役を担わなければならない一方、児童数の多い地域ではほとんど関わらずに済む。このような「やる人とやらない人の差」「地区間の負担格差」が、不満や不信感をさらに募らせています。

なぜ解決が難しいのか(役員決めの構造的問題)

役員のなり手不足は、単に「やりたい人が少ない」という表面的な問題にとどまりません。そこには、いくつかの構造的な課題が存在しています。

まず、PTA役員の多くは「ボランティアでありながら必須の仕事」という矛盾を抱えています。保護者全員が会員である以上、誰かが必ず担わなければならない役割がある一方で、強制はできない。そのため、押し付け合いや消極的な空気が生まれやすくなっています。

次に、選出方法の不透明さがあります。立候補制を導入しても応募が集まらず、推薦制に頼れば「知り合いにばかり声がかかる」と不満が出る。抽選制にすれば公平さは担保されますが、「忙しい人に当たってしまうリスク」が敬遠される。いずれの方法も一長一短で、明確な「正解」が見えにくいのが現状です。

さらに、役割の重さや情報不足も壁になります。会長や本部役員は学校や地域との調整役として責任が大きいにもかかわらず、具体的な仕事内容やサポート体制が十分に周知されていないことが多い。「大変そう」「自分にはできない」というイメージが広まり、敬遠される一因となっています。

最後に、世帯数減少と活動量のアンバランスが拍車をかけています。少子化や地域の縮小で保護者数が減っているにもかかわらず、活動内容は昔とあまり変わらない。結果として、一人あたりの負担が重くなる悪循環が生じているのです。

こうした複数の要因が絡み合い、役員選出は単純な制度変更や声かけだけでは解決しにくい「構造的な問題」となっています。

PTA活動の負担感と働き方の変化

PTA活動の負担感と働き方の変化

アンケートでは、「役員のなり手不足」と並んで多く寄せられたのが、PTA活動そのものの負担感に関する声でした。

まず挙げられるのは、平日昼間の活動の多さです。会議や作業が平日日中に設定されることが多く、「参加するためには会社を休まなければならない」「パートや勤務調整ができず、結局欠席せざるを得ない」といった切実な声が目立ちました。現代では共働き家庭が多数派となっているため、昼間に集まるスタイルそのものが現実と合わなくなっているのです。

こうした状況は、保護者に「やらされている感」を強めています。子どものために活動しているはずなのに、「意味の薄い会議のために仕事を休んだ」「形式的な集まりに時間を取られた」と感じてしまうと、モチベーションは下がり、「できれば参加したくない」という心理につながってしまいます。

また、役員や委員の仕事が特定の人に集中する傾向も負担を大きくしています。「一度引き受けると、またお願いされる」「結局、同じメンバーばかりで回っている」という声は少なくありません。結果として、奉仕活動や行事準備が一部の家庭に偏り、疲弊感や不公平感が広がっています。

さらに、少子化によって会員数自体が減少しているため、一人あたりの役割が重くなっている点も無視できません。「6年間で何度も役員をやらざるを得なかった」「常に何かしらの仕事が回ってくる」という体験談は、地方や小規模校を中心に顕著です。

こうした背景から、「PTA活動が子どものための協力の場」という意義が見えにくくなり、「大変」「面倒」といったイメージが先行しているのが現状です。

PTAの存在意義を問う声

アンケートの中には、PTAそのものの存在意義を問い直す声も少なくありませんでした。「今の時代に合っていない」「活動が形骸化している」「そもそも必要性が分からない」といった意見は、保護者の間で広がる不満や疑問を端的に表しています。こうした声の背景には、働き方や家庭環境の変化が進む中で、従来の仕組みや活動内容が生活実態と合わなくなってきている現実があります。

また、「活動をもっと簡素化すべき」「意味のない行事や会議を減らしてほしい」という要望も多く寄せられました。長年続けられてきた行事や慣例を見直すことに抵抗感を持つ声もある一方で、「続けることが目的化してしまっている」との批判も根強く、効率化や削減の必要性を感じている保護者は少なくありません。

一方で、すべてが否定的な意見に終始しているわけではありません。「PTAは子どもと地域をつなぐ大切な場」「先生と保護者が協力できる仕組みとして続けるべきだ」という前向きな意見も寄せられました。地域社会の人間関係が希薄化する中で、PTAをコミュニティ維持のために活かしたいという考えも一定数存在しているのです。

つまり、PTAの存在意義は「不要」「縮小すべき」という否定的な見方と、「必要」「役割を再定義すべき」という肯定的な見方の両面が共存していると言えます。今後は、どちらか一方に寄るのではなく、時代に合わせて活動の範囲や形を調整しながら存続させていくのか、それとも抜本的に新しい仕組みに切り替えるのかを考えることが求められているといえるでしょう。

少子化と加入意識の低下

少子化と加入意識の低下

アンケートでは、少子化と家庭数の減少がPTA運営を直撃している現状も浮かび上がりました。児童数が減れば必然的に保護者の数も減り、役員の候補者が限られてしまいます。「毎年必ず何かしらの役をやらざるを得ない」「同じ家庭に役が集中してしまう」といった声は、小規模校や地方ほど深刻です。結果として、一人あたりの負担が重くなり、役員確保が年々難しくなっているのです。

さらに近年では、PTA未加入や加入拒否への対応も課題として挙がっています。本来PTAは任意加入であるはずですが、「入学と同時に自動的に会員になる」「事実上、断りづらい雰囲気がある」といった指摘がありました。加入を拒否する保護者が出た場合の対応も統一されておらず、「加入しない家庭への扱いをどうするのか」という疑問が各地で生じています。

その背景には、「強制加入や半ば強制的な仕組み」に対する不信感があります。役員や会費の徴収が当然のように行われることに対し、「本当に必要なのか」「もっと自由に選べる形にできないのか」という意見が出ています。特に「加入してもしなくても子どもへの対応に差がないなら、むしろ加入する方が損だ」と考える保護者もおり、PTAそのものの存在意義と加入の在り方を再考すべきだという問題提起につながっています。

少子化と加入意識の低下は、単なる人数減にとどまらず、組織の正当性や在り方そのものを揺るがす要因となっているといえるでしょう。

コロナ禍の影響とアフターコロナの課題

令和5年のアンケートでは、コロナ禍がPTA活動に与えた影響についての声も多く寄せられました。

まず大きかったのは、保護者同士のつながりが薄れたことです。行事や集会の縮小・中止により、顔を合わせる機会が減少しました。その結果、「推薦がしづらくなった」「誰がどんな家庭なのか分からないため声をかけにくい」といった悩みが生まれ、役員選出の難しさに直結しています。

次に、PTA活動のノウハウの途絶という問題があります。コロナによって活動が止まった数年間の間に、経験者が卒業してしまい、引き継ぎが途切れました。「どうやって行事を運営していたのか」「以前はどこまで負担を分担していたのか」が分からなくなり、スムーズに再開できない状況が見られます。

さらに今問われているのが、「どこまで戻すか」「何をやめるか」という取捨選択です。コロナ禍で中止された行事や活動を、そのまま再開すべきかどうか。中止しても問題がなかったものは思い切って削減した方がいいのではないか。逆に、失われた交流や学びの機会は再構築すべきではないか。PTAにとっては、活動の意味や必要性を見直す大きな転換点になっています。

アフターコロナの今、求められているのは「元に戻すこと」ではなく、時代に合わせた新しい形のPTA活動を再構築することだといえるでしょう。

学校・地域との関係

学校・地域との関係

アンケートでは、PTAと学校・地域との関わりについても多くの意見が寄せられました。

まず、教員との連携不足を指摘する声がありました。PTAは「保護者と教師の会」であるはずですが、実際には「保護者だけが負担している」「学校側に意見を出しても経営や運営に反映されていない」といった不満が見られます。教師の働き方改革の流れもあり、行事や会議の縮小が進んでいる一方で、保護者側には「自分たちの意見が置き去りにされている」という感覚が残っているようです。

次に論点となっているのが、地域活動や町内会との関わりの是非です。敬老会や地域行事への参加、地域清掃など「PTA活動」と「地域活動」の境界があいまいになっているケースがあり、「学校のための活動に集中すべきではないか」「地域行事にまでPTAを動員する必要があるのか」と疑問を呈する声がありました。その一方で、地域の子どもたちを見守る仕組みとしてPTAが果たす役割を評価する声もあり、方向性については意見が分かれています。

さらに、地域の高齢化が進む中での現実的な課題も挙がりました。町内会や地域団体自体の担い手不足が深刻化しており、PTAも同じように活動縮小を余儀なくされています。「地域の担い手としてのPTA」という期待と、「子どもの保護者としての活動に絞るべき」という声が交錯しており、今後の役割分担をどう整理するかが問われています。

つまり、学校と保護者、地域とPTAの関係性はこれまでの延長では立ち行かなくなっており、どの範囲を担うのか、どのように協力し合うのかを改めて整理することが求められているといえるでしょう。

PTAを持続可能にするための視点

アンケートに寄せられた声を整理すると、現行の仕組みをそのまま維持するのは難しいことが浮き彫りになっています。では、どのようにすればPTAを持続可能な形にできるのでしょうか。いくつかの方向性が見えてきます。

1. 負担軽減の工夫

まずは、保護者の負担を減らすことが何より重要です。会議や連絡をオンライン化し、物理的に学校へ集まる回数を減らす。活動自体を簡素化し、形式的な行事や必要性の低い業務は思い切って見直す。さらに、特定の役員に過度に負担が集中しないように、必要に応じてボランティア制を導入し、やりたい人・できる人が無理なく参加できる仕組みをつくることが考えられます。

2. 役員選出方法の透明化

次に、役員をどう選ぶかという問題です。曖昧な推薦や人脈頼みでは不満が生じやすくなります。立候補制を基本とし、立候補がなければ公平な抽選制を取り入れるなど、誰もが納得できる選出方法が必要です。また、仕事内容や年間のスケジュールを事前に明示することで、引き受けるハードルを下げる工夫も有効です。

3. PTA活動の意義を伝える

「やらされている」という感覚を払拭するには、活動の意義を明確に伝えることが欠かせません。どの活動が子どもや学校生活にどのように役立っているのかを具体的に示し、活動報告をわかりやすく共有することで、「やる意味がある」と感じてもらえるようになります。結果として、参加への抵抗感が和らぐ可能性があります。

4. 多様な家庭の参加を促す

最後に、参加する顔ぶれの多様化も課題です。男性保護者の参加を促し、「PTAは母親がやるもの」という固定観念を見直す必要があります。また、ひとり親家庭や外国籍家庭など、これまで参加が難しかった家庭にもアクセスできる工夫を取り入れることで、より開かれた組織へと変わることができます。

このように、PTAを持続可能にしていくためには、単に「続けるかやめるか」ではなく、仕組みそのものを時代に合わせて柔軟に再設計することが欠かせません。

まとめ

PTAを持続可能にするための視点

今回紹介した福島県PTA連合会のアンケート結果(令和5年実施)は、全国の多くのPTAにも共通する課題を浮き彫りにしていました。

第一に、役員のなり手不足が深刻です。とりわけ会長や本部役員は責任の重さから敬遠されやすく、役員選出が毎年の大きな壁となっています。背景には、共働き家庭の増加や活動内容の不透明さ、不公平感があり、単純な制度変更だけでは解決できない構造的な問題が横たわっています。

第二に、活動の負担感が強まっています。平日昼間の会議や奉仕作業は参加のハードルを高くし、「やらされている感」を増幅させています。結果として、一部の保護者に負担が集中し、モチベーション低下や参加意欲の減退につながっています。

第三に、PTAの存在意義そのものが問われています。「時代に合わない」「形骸化している」との否定的な意見がある一方で、「地域と学校をつなぐ大切な場」として継続を望む前向きな声も少なくありません。この二つの見方が共存していること自体が、今のPTAの立ち位置をよく示しています。

また、少子化や加入意識の低下コロナ禍によるつながりやノウハウの断絶、そして学校や地域との関係性の変化といった社会的背景が、従来の仕組みをさらに難しくしています。

それでも、アンケートの声からは解決の方向性も見えてきます。

  • 負担の軽減(オンライン化・活動簡素化・ボランティア制)
  • 役員選出の透明化(立候補制や抽選制の導入)
  • 活動意義の明確化と共有(成果を可視化し、意味を伝える)
  • 多様な家庭の参加促進(父親や外国籍家庭なども含めた開かれた仕組みづくり)

PTAを持続可能にしていくためには、「これまで通り」ではなく、現代のライフスタイルに合わせた柔軟な再設計が求められます。そして何より大切なのは、「子どもたちのために」という本来の目的を忘れず、保護者・学校・地域が無理なく協力できる形を模索していくことです。

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