
なぜ今「PTA会長」が注目されるのか
PTA会長という役割は、長い間「地域や学校のために必要な存在」とされてきました。しかし近年、その重みがより強く意識されるようになっています。特に「断れない役職」というイメージが定着し、多くの保護者が不安を抱える要因となっています。実際、役員選出の場で「会長だけは避けたい」という声が頻繁に聞かれ、場合によっては立候補者が出ずに押し付け合いになることもあります。背景には社会全体の変化があります。
共働き家庭の増加により、保護者が自由に使える時間は減少しています。そこに少子化の影響が重なり、一人ひとりの保護者に求められる負担が相対的に大きくなっているのです。また、地域のつながりが希薄化し、かつては自然と分担されていた役割が「特定の人に偏る」傾向も見られます。その結果、PTA会長という立場が大きなプレッシャーとして浮かび上がっているのです。
とはいえ、PTA会長は単なる役員の一人ではなく、学校と家庭をつなぐ代表者であり、地域との橋渡しを担う重要な存在です。防犯や防災、地域行事との協力など、子どもたちの安心・安全や教育環境の充実に直結する活動の中心でもあります。だからこそ「大変だけど大切な役割」として注目され、社会的な関心が高まっているのです。本記事では、このPTA会長の仕事の実態と、令和の時代にふさわしい新しいあり方について掘り下げていきます。
PTA会長の基本的な役割
学校と家庭をつなぐ代表者
PTA会長の最も基本的な役割は、学校と家庭をつなぐ「代表者」としての存在です。学校からの要望や情報を保護者に伝え、逆に保護者の意見や要望を学校側に届ける橋渡し役を担います。保護者全体の声をまとめて発信する立場であるため、単なる連絡役ではなく「保護者の代弁者」としての役割が強く求められます。学校行事や教育方針について意見を述べる場面もあり、子どもたちの教育環境を保護者の視点からより良いものにするための大切な機能を果たしています。
PTA活動の企画・運営の中心
PTA会長は活動全体の企画と運営の中心人物です。年間の総会を主宰し、役員会をまとめ、活動計画や予算案の承認を取り仕切ります。また、運動会や文化祭など学校行事に関わるサポート、講演会や地域イベントなどの企画もリードする役割があります。実務は役員や委員が担うことが多いものの、最終的な意思決定や調整は会長が担うケースが多く、活動の方向性を示すリーダーシップが不可欠です。そのため「会議での進行役」「意見のまとめ役」としての力量が求められます。
教職員や行政との橋渡し
学校内だけでなく、教職員や教育委員会、行政機関とのパイプ役となるのもPTA会長の仕事です。校長や教頭と協力し、学校運営に関する課題や改善点を共有する場に参加することもあります。さらに、市P連や県P連といった上部組織の会合へ出席し、情報交換や政策的な意見を伝える立場でもあります。行政とのやり取りを通じて、補助金や地域事業の活用につなげるなど、子どもたちの教育環境に広く影響を与える役割を担っています。
地域との連携(自治会、防犯、防災など)
PTA会長は、学校外の地域団体とも積極的に関わります。自治会や町内会と連携し、防犯パトロールや通学路の安全対策、防災訓練などに協力することが一般的です。子どもたちの生活環境は学校の外にも広がっているため、地域との関わりは教育活動の一部として重要視されています。地域行事や清掃活動への参加を通じて「学校・家庭・地域」の三者をつなぎ、子どもが安心して育つ地域づくりに貢献することも、PTA会長に求められる役割のひとつです。
PTA会長は、学校内外のあらゆる関係者をつなぐ要の存在です。家庭の声を届け、活動を企画・運営し、教職員や行政と連携し、地域との協力を深めることで、子どもたちの成長を支える基盤を整えています。
PTA会長の仕事の実態と現場の声

年間スケジュールの一例(総会、行事準備、役員会)
PTA会長の仕事は1年を通じて計画的に動きます。4月には総会を主宰し、活動計画や予算案を承認。5月以降は運動会や地域清掃などの行事準備、秋には文化祭やバザーの運営サポート、冬には広報誌や次年度の役員選出が待っています。さらに月1回以上の役員会議を仕切り、年度末には決算報告や引き継ぎも担当。年間を通じて大小さまざまな業務があり、会長が中心となって進める必要があるため、常にスケジュールを把握して行動する姿勢が求められます。
時間的な負担(会議・資料作成・休日の行事参加)
会長の業務は平日の会議進行や資料作成に加え、休日の行事参加も多く発生します。特に学校行事や地域イベントが重なると、土日も拘束されるケースがあります。仕事や家庭との両立が難しいと感じる人も少なくありません。さらに資料作成やメールのやり取りといった細かい作業もあり、「想像以上に時間を取られる」という声がよく聞かれます。働きながら会長を務める人にとっては、負担を分担できる体制やデジタルツールの活用が必須となっています。
プレッシャー:保護者や教職員からの期待・調整の難しさ
PTA会長は保護者代表として「保護者の意見をまとめる」役割を担うため、時に板挟みになることもあります。保護者の要望は多様であり、すべてを汲み取るのは困難です。一方で学校や教職員からは「保護者をまとめてほしい」という期待がかかり、双方の意見を調整する難しさが常につきまといます。さらに行政や地域団体との連携も加わることで、責任の重さが増すのです。この「期待に応えるプレッシャー」が、会長という役職を特に重く感じさせる要因となっています。
「大変だった」という声と「やってよかった」という声
多くの人が「大変だった」と口をそろえる一方で、「やってよかった」という前向きな声も少なくありません。大変さの理由は、業務の多さや時間的制約、調整の負担にあります。しかし「子どもの学校生活をより深く知ることができた」「先生や地域の人と信頼関係が築けた」「多くの人から『ありがとう』と言ってもらえた」という経験は、大きな達成感につながります。苦労と同時に、人とのつながりや自分自身の成長を実感できるのがPTA会長という役割なのです。
PTA会長の仕事は年間を通じて多岐にわたり、時間や調整の負担が大きい一方、やり遂げたときの充実感や人とのつながりはかけがえのないものです。負担とやりがいの両面が、この役職の特徴と言えるでしょう。
なぜ「大変」だと言われるのか?
PTA会長が「大変」と言われる背景には、いくつかの構造的な要因があります。まず大きいのは担い手不足と押し付け合いです。少子化や共働き家庭の増加により、役員を引き受けられる人が限られ、結果として会長選出の場面で「誰もやりたがらず押し付け合いになる」ことが珍しくありません。
さらに、慣習的に続けられてきた行事や業務の多さも負担感を強めています。本来は見直すべき活動が「前年度もやったから」と惰性で続けられ、必要以上に会長や役員の仕事量を増やしているのです。
また、ICT活用の遅れも課題です。連絡や資料配布が紙ベース中心のため、会議準備や情報共有に時間がかかり、会長にとって効率の悪さが大きなストレスとなっています。
そして最も本質的なのは、「ひとりに集まる負担」の構造的な問題です。会長が責任を一手に引き受ける仕組みが根強く、意思決定・調整・対外的対応まで集中してしまうことで、過大な重圧を生んでいるのです。
令和のPTA会長に求められる視点
チームで運営する発想:複数人制、役割分担制
従来のPTA会長は「ひとりで背負う」姿が一般的でしたが、令和の時代には複数人での運営が求められています。ツイン体制や副会長との役割分担によって負担を分散し、家庭や仕事との両立をしやすくします。複数人制にすることで意思決定が偏らず、多様な意見を取り入れることも可能です。結果として、持続可能なPTA運営につながるのです。
会長をひとりにせず「チームで支える」発想が、負担軽減と質の向上を実現します。
ICT活用:LINE、クラウド、デジタル回覧板などで効率化
紙の回覧板や対面会議に頼る運営は、多忙な保護者にとって大きな負担です。そこで令和の会長には、LINEグループやクラウド共有、デジタル回覧板といったICTを取り入れる視点が必要です。情報共有が迅速かつ簡単になり、会議時間の短縮や参加のハードルを下げられます。効率化は負担軽減だけでなく、参加意欲の向上にもつながります。
ICTを活用することで時間と労力を削減し、より参加しやすいPTAを実現できます。
透明性と公平性:会費の使途公開、選出方法の見直し
会費の使途や役員の選出方法が不透明だと、不信感が生まれやすくなります。令和の会長には、会計情報を定期的に公開し、誰でも納得できる形で選出方法を見直す姿勢が必要です。立候補・抽選・輪番制の併用など、家庭の事情に応じた仕組みを導入すれば、より公平で透明性のある組織運営が可能となります。
透明性を確保することが信頼を築き、会長への協力体制を広げる基盤となります。
多様性への配慮:共働き・シングル家庭・外国籍保護者など
現代のPTAにはさまざまな家庭環境の保護者が関わっています。共働きやシングル家庭、外国籍の保護者など、それぞれの事情に応じた柔軟な参加方法を用意することが不可欠です。短時間参加やオンライン参加を認める仕組みを整えれば、誰もが無理なく関わることができます。多様性を尊重することは、PTA活動をより開かれたものにする第一歩です。
多様な家庭に配慮する仕組みが、誰も排除されないPTAづくりにつながります。
「できる人ができることを」の文化の醸成
「全員が同じ負担を」という発想から、「できる人ができることをやる」という柔軟な文化へ転換することが重要です。小さな役割でも参加できる仕組みを整えることで、多くの保護者が関わりやすくなります。結果として一部の人に負担が集中することを防ぎ、持続可能な組織となります。この文化は、PTA会長自身の負担を減らす大きな助けにもなります。
柔軟な役割分担を進めれば「協力しやすいPTA」が実現し、会長の負担も軽減されます。
改革の事例紹介

令和のPTA改革は、各地で少しずつ形を変えながら進んでいます。その中心には「負担を減らし、より多くの人が関わりやすくする」という共通の目的があります。以下では、具体的な取り組み事例を紹介します。
抽選制や立候補制の導入
従来は推薦や輪番制に頼っていた役員選出を、抽選制や立候補制へと切り替える学校が増えています。立候補があれば優先し、いなければ抽選で決める方式は「押し付け合い」を避ける工夫です。中には「短期間だけ会長を務める」「半年ごとに交代」といった新しい試みも見られます。
ツイン体制や分担制での運営
一人に負担が集中するのを防ぐため、PTA会長を二人体制にしたり、副会長と明確に役割を分ける学校もあります。「行事担当」「会議担当」といった分担で負担が軽くなり、気持ちの余裕が生まれることで活動の質も高まります。
業務の外部委託・簡略化
バザーや広報誌といった伝統的な行事や業務を見直す動きも進んでいます。必要性の低い活動は思い切って廃止したり、印刷物や物品の発注を外部業者に委託することで役員の作業を大幅に減らした例もあります。結果として、残した活動に集中できるメリハリが生まれています。
ICTの積極活用
LINEオープンチャットで役員同士の連絡を一元化したり、Googleフォームでアンケートを取るなど、デジタル化を進めるPTAも増えています。紙の回覧板を「デジタル回覧板」に置き換えたことで、回収の手間が減り「会議に来られない人も意見を出せるようになった」という効果も出ています。
改革の事例に共通しているのは、「続けやすさ」を第一に考えている点です。選出方法の見直し、役割分担、外部委託やICT活用など、小さな工夫の積み重ねがPTAを大きく変えています。令和のPTA会長には、こうした事例を柔軟に取り入れ、自分たちの地域に合った形へと発展させる姿勢が求められます。
PTA会長を経験して得られるもの

PTA会長という役割は「大変」という印象が先行しがちですが、実際に経験した人の多くは「得られるものが大きかった」と振り返ります。その一つが人とのつながりです。教職員との信頼関係はもちろん、地域の団体や他の保護者との交流が広がり、普段の生活では得られないネットワークが築かれます。「子どもの学校を超えて地域全体とつながる機会になった」という声も少なくありません。
また、学校運営への理解が深まることも大きな収穫です。校長や先生方と直接やり取りすることで、教育現場の課題や学校運営の工夫を知ることができます。保護者の立場から学校を支えるという意識が芽生え、教育への見方が変わったと感じる人も多いのです。
さらに、子どもの学校生活を近くで見られる喜びがあります。行事や活動の裏側に関わることで、普段は見えない子どもの成長や学校生活の一面を知ることができるのは、保護者にとって大きな魅力です。「子どもとの会話が増えた」「学校での様子が分かり安心できた」という声はよく聞かれます。
そして忘れてはならないのが、リーダーシップや調整力といったスキルの向上です。多様な意見をまとめ、行事を運営し、地域や学校と連携する経験は、まさに社会で求められる力そのものです。中には「仕事にも役立った」と話す人もおり、個人の成長につながる側面は非常に大きいと言えるでしょう。
このようにPTA会長の経験は、負担だけではなく、人間関係・教育理解・家庭の喜び・社会的スキルといった幅広い学びをもたらす貴重な機会なのです。
これからのPTA会長像
令和の時代にふさわしいPTA会長は、従来のように「一人で責任を背負い込むリーダー」ではなく、共創を促す調整役へと変わっていく必要があります。少子化や共働き家庭の増加により、一部の人に負担を押し付ける仕組みはもはや成り立ちません。会長の仕事は「すべてをやること」ではなく、「仕組みを整え、周囲を巻き込み、持続可能にすること」へと移行していくべきです。
今後は、ツイン体制や役割分担制で「一人に集中しない」運営が主流になるでしょう。さらに、デジタル回覧板やオンライン会議を活用し、誰もが参加しやすい環境を作ることも必須です。加えて、会費の透明性や役員選出の公平性を確保し、多様な家庭環境や価値観に応じた柔軟な仕組みを整えることが期待されます。
また、PTAは「学校行事の裏方」から、地域と学校をつなぐハブへと役割を広げていくことも求められています。防災や安全対策、地域行事の協力など、子どもたちの生活環境全体を支える存在として、会長はその調整役を担うのです。
最終的に目指すべきは、「会長に選ばれても不安ではなく、むしろやってみたいと思える役職」に変えること。負担を軽くし、やりがいを共有することで、PTA会長は学校と地域をつなぐ新しいリーダー像として輝けるはずです。
まとめ:令和のPTA会長は「共創のリーダー」
PTA会長は長年「大変な役職」とされ、押し付け合いや負担感が語られてきました。しかし、令和の時代に求められるのは、従来のように一人で全てを抱え込む存在ではありません。ICTや複数人制の導入、役割分担の工夫、透明性や公平性の確保、多様な家庭環境への配慮を通じて、「みんなで支える仕組み」をつくる調整役こそが新しい会長像です。
会長一人が全てを背負うのではなく、保護者・教職員・地域がそれぞれの立場で力を出し合い、共に学校や地域をより良くしていく。その流れを形にするのがPTA会長の大切な役割です。つまり、令和のPTA会長は「負担を背負う人」から「共創を導くリーダー」へと進化する必要があります。
子どもたちの未来のために、保護者同士が協力し合える環境を整えること。その先頭に立つ存在として、PTA会長は今こそ「やりがい」と「希望」を感じられる役職へと変わっていくべき時代を迎えています。

PTA会長は決して「一人で大変な役割」ではありません。みんなで支え合い、できる範囲で協力すれば、子どもたちの成長を支える喜びに変わります。無理なく前向きに、一歩を踏み出してみませんか。