
PTA会長の決め方パターン
立候補制
立候補制はもっともシンプルで民主的な方法です。「自分がやりたい」という意思を持った人が名乗りを上げるため、やる気のある人材が会長になるケースが多く、活動全体が前向きに進みやすいという利点があります。とくに学校改革やイベント運営に積極的な人が立候補することで、PTA全体の雰囲気が明るくなることもあります。
一方で、立候補者が出ない年は大きな問題となります。「忙しいから」「責任が重いから」と敬遠されやすく、結局は沈黙が続き、気まずい空気が流れる場面を経験した人も多いでしょう。私自身も会長を務めた際、「もし立候補者がいなければ、結局誰かが無理にでもやることになる」という暗黙の圧力を感じました。さらに、毎回同じような顔ぶれが立候補することもあり、「限られた人に負担が集中する」という不公平感が生まれるリスクもあります。
つまり立候補制は、意欲的な人材を見つけやすい一方で、候補がゼロの場合や、特定の人に偏るという課題を抱えています。そのため、他の方法との組み合わせや「立候補を促す仕組みづくり」が必要となるのです。
- メリット
やる気のある人が自ら手を挙げるため、活動が前向きに進みやすい。責任感の強い人材が会長となるケースが多く、周囲からも納得を得やすい。 - デメリット
立候補者が出ない場合に会が停滞する恐れがある。特定の人に負担が集中したり、毎年同じ人が続けて務めるなど不公平感が生まれやすい。
推薦制
推薦制は、周囲から「この人が適任だ」と思われる人を選び出す方法です。推薦を受けること自体は信頼の証ともいえるため、候補者が承諾すれば適材適所の人材が会長に就く可能性が高くなります。また、自分からは立候補しないタイプの人でも、推薦されることで新しい役割に挑戦するきっかけになることもあります。
しかし、現実には「断りづらさ」が大きな問題です。推薦された人が辞退しようとすると、「せっかくみんなが推してくれたのに…」という空気が流れ、心理的に強いプレッシャーを感じることになります。私が会長を務めたときも、「周囲からの推薦があったから」という理由で承諾せざるを得なかった人を見てきました。本人の事情や負担を無視した形で推薦が進むと、不満やトラブルの原因になりかねません。
さらに、推薦が事実上の「根回し」や「押し付け」になってしまうケースもあります。表向きは推薦制でも、実態は「役員の間で事前に決められていた」という声も少なくありません。つまり推薦制は、一見すると民主的ですが、裏での力関係や人間関係のしがらみが色濃く反映されやすい方法でもあるのです。
- メリット
周囲から「適任」と認められた人が選ばれるため、人材を発掘しやすい。本人が自ら立候補しない場合でも新しい役割を担う機会になる。 - デメリット
推薦を断りにくく、心理的な圧力が大きい。実質的に押し付けや根回しに近い形になることもあり、不満や人間関係のしこりを残しやすい。
くじ引き(抽選制)
公平性を重んじる方法としてよく導入されるのが「くじ引き」です。くじによる抽選は誰にでも平等にチャンスがあり、忖度や偏りをなくすことができます。そのため「誰も文句が言えない方法」として受け入れられやすい側面があります。
実際、私の周囲でも「結局はくじで決めた」という学校の話をよく聞きます。緊張感のある会議の場で、抽選箱から番号を引く瞬間の独特な空気を経験した人も多いでしょう。公平性を優先するなら、もっともシンプルで透明な方法といえます。
しかし、くじ引きには落とし穴があります。例えば、家庭や仕事の事情でどうしても会長を務められない人に当たりくじが回ってしまう場合です。「公平」とはいえ、その人にとっては大きな負担であり、不満やトラブルの火種になります。また「運任せで決めるなんて無責任」という批判も根強く、くじ引きが原因でPTA活動全体へのモチベーションが下がることもあります。
公平性の高さは魅力ですが、事情を抱える人への配慮を欠くと逆に不公平になる――これがくじ引きの難しさです。
- メリット
誰にでも平等にチャンスがあり、忖度や偏りを防げる。決定方法がシンプルで透明性が高く、表向きは「最も公平」と受け止められやすい。 - デメリット
事情を抱える人が当選すると不満やトラブルの原因になる。単なる運任せの印象が強く、活動へのモチベーション低下を招く恐れがある。
輪番制
輪番制は、役員の順番が自動的に回ってきて、その年に当たった人が会長を務めるという仕組みです。あらかじめ順番が決まっているため、透明性が高く、「誰がやるか」で揉めることは少なくなります。公平感があり、長期的に見れば全員が同じように負担を分かち合うことができるという点で、システムとしては非常にシンプルです。
しかし、輪番制もまた現実には課題を抱えています。たとえば、順番が回ってきた年にちょうど家庭や仕事で大きな事情を抱えていた場合でも、基本的には逃れられません。そのため「不公平感は少ないけれど、柔軟性に欠ける」という声が多く聞かれます。私自身も、ある年度で「順番だから仕方ない」と引き受けざるを得なかった人が疲弊していく姿を目の当たりにしました。
また、輪番制は「誰が会長になるか」を事前に予測できる分、次に当たる人が憂鬱な気持ちで過ごすことにもつながります。公平でありながらも、負担感や精神的なプレッシャーを先延ばしにしているだけ、という側面も否めません。
- メリット
順番があらかじめ決まっているため透明性が高く、平等に負担を分担できる。誰が次に会長になるか予測でき、事前準備もしやすい。 - デメリット
順番が回ってきた時期に事情を抱えていても辞退しにくい。公平さはあるが柔軟性に欠け、精神的な負担を先送りする面がある。
投票制(無記名投票など)
投票制は「民主的な選挙方式」として取り入れられることがあります。候補者をリストアップし、無記名投票で多数決をとる方法は一見もっとも公正に見え、選ばれた人への納得感も得られやすいといえます。
ただし、学校や地域によっては投票制が「人気投票」に近くなってしまうこともあります。人柄や知名度で票が集まるため、必ずしも適任とは限らず、選ばれた人が大きな負担を感じるケースもあります。さらに、得票数が少なかった候補者が肩身の狭い思いをしたり、投票結果が人間関係のしこりを残したりするリスクも無視できません。
また、投票制を導入するには候補者を事前に立てる必要があり、その時点で「誰が候補になるのか」をめぐって混乱やトラブルが生じやすくなります。現実的には、立候補制や推薦制と組み合わせて使われることが多いのが実情です。
投票はもっとも「民主的な方法」と言えますが、運営の手間や人間関係への影響を考えると、必ずしも万能ではないのです。
- メリット
民主的な多数決方式で決められるため、決定に納得感が生まれやすい。候補者への支持が可視化され、運営の透明性を高める効果がある。 - デメリット
人気投票になりがちで、必ずしも適任が選ばれるとは限らない。得票差が人間関係に影響を及ぼし、候補者に心理的負担を与える。